第十話

10 名前: ◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 21:55:22.13 ID:YWwp1d2Z0

バリケードから飛び出るなり、僕は一足飛びにタカラへと飛び掛る。
タカラが慌ててライフル銃を僕に照準し、撃ってくるが僕は冷静にそれをかわす。
こんな至近距離だ。当然相手の指の動きは見えるので、相手の射撃のタイミングも分かる。
僕はそのタイミングに合わせて屈んで、銃撃を避けた。
運の悪い誰かがその弾丸に当たったらしく、悲鳴が聞こえる。
構わずに、体勢を低くしたままタカラへとタックルを食らわせる。
僕の肩がタカラの腹にぶつかり、タカラの肺から空気が吐き出される。
タカラは衝撃に顔をゆがめながらも、なんとか踏ん張って持ちこたえる。
そのまま上体を上げて、タカラの顔を殴りつけてやろうとしたところで、背中に衝撃が来る。
タカラが逆手に持ったライフル銃の銃把で僕の背中を殴りつけたらしい。
だが、僕はひるまない。
背中など、あのタコ部屋で殴られなれている。
労働中、しゃがんでいる時、背を丸めている時、疲れて果てて地面に倒れた時、最も殴られたのが背中だった。
もはや、生半可な力で背中を殴られたところで痛みなど感じない。
むしろあの頃を思い出して懐かしさのようなものを感じる。
閑話休題。
僕は、さらにライフル銃を振り上げようとしたタカラの顎に、頭突きを食らわせる。
タカラが仰け反る。

12 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 21:55:51.10 ID:YWwp1d2Z0

僕はさらに頭突きを叩き込もうとして、タカラの眼光がまだ死んでいない ことに気づく。
僕が頭突きを繰り出すのにあわせて、タカラは踏ん張って体勢を立て直し、さらに体勢を立て直した勢いで頭突きを繰り出してきた。
僕とタカラの額がぶつかり、お互いの額が割れる。
―――笑ってばかり居る陽気そうな見た目からは想像できないくらいに、いい頭突きしてくれるじゃないか。
心の中でタカラに賛辞を送る。
お互いの視線が、額をぶつけ合ったままの近距離で交錯する。
僕はその姿勢のまま話しかけた。

( ^ω^)「聞きたい事があるお。」
( ^Д^)「何ですか?」
( ^ω^)「須藤さんを殺したのはおまえかお?」
( ^Д^)「須藤?」
( ^ω^)「武運組の若頭だお。」
( ^Д^)「さあ。この数日で随分殺したので覚えてません。武運組なら僕が指揮をとって突撃しましたがね。」
( ^ω^)「そうかお。」

これで確信がもてた。
このタカラが須藤さんを殺したのはまず間違いない。

( ^Д^)「ええ。そうです。そして―――」

13 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 21:56:19.75 ID:YWwp1d2Z0

そう言った瞬間、タカラが頭を後ろに下げる。
もう一度頭突きをするつもりだろう。
タカラの声を聞くのに集中していて反応できなかった。
ヤバイ、すぐにでも頭突きが来る。
なんとかしてガード―――

――――する気など毛頭ない。
僕はそのままタカラの顔面を殴りつける。
殴られた勢いに頭を後ろに下げようとしていたタカラ自身の首の力も加わり、このままタカラが後ろに倒れるかと思えた。
が、タカラは倒れなかった。
僕に殴られ、口の中を切ったのか、唇の端から血を流しつつも足をしっかりと踏みしめて倒れるのを防いだ。
僕の目が驚愕に見開かれる。

―――コイツは、強い。

何故かは分からないが、僕は瞬間的にタカラのことが分かった。
こいつは倒れない男だ。倒れるべきでない時には、絶対に倒れない男だ。

14 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 21:57:34.91 ID:YWwp1d2Z0

( ^Д^)「―――そして、貴方も僕に忘れられる死人の中の一人にな るんです。」

タカラのライフル銃を握っていない左手が、僕の右手を掴む。
僕の右手はタカラを殴った時のまま、伸ばされていた。
タカラは僕の右手を引っ張り、僕の体制を前のめりに崩すと、そこへ頭突きを放った。

(;^ω^)「ぐ・・・・ッ!!!」

僕の目の奥で火花が散った。
無茶苦茶痛い。
頭突きが僕の顔へと入ると、タカラは僕の手を離した。
僕は自然に頭突きを受けた勢いで後ろへと下がる。
ヤバい。
とにかく後ろに下がるのはヤバい。
タカラの右手にはまだライフル銃が握られている。
僕は必死に足に力を篭め、その場で踏ん張る。
急いで視線をタカラへと向けた時、奴はライフル銃をしっかりと構えて、僕に狙いを定めていた。


20 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:12:36.52 ID:YWwp1d2Z0

タカラは目の前に立つ男を見る。
名前は内藤ホライゾン。
リストを見た限り、たった三人でスレスト建設との抗争にケリをつけた奴等のうちの一人だ。
後はこの銃の引き金を引くだけで、目の前の内藤とかいう男を殺す事ができる。
だが、引けない。
内藤もまたタカラに向けて銃を向けていたからだ。
先ほど頭突きを食らわせたときに、内藤の手は既に懐に伸びていた。
こちらが銃を使う事を見越してあの時に抜いたのだろう。

お互いに銃を向け合うという状況に少し動揺したのかもしれない。
銃口が目の前で自分に照準を合わせている事にプレッシャーを感じたのかもしれない。
ともあれ、タカラの頭は一瞬停止した。
その隙に内藤がタカラの握る銃を蹴り上げた。
タカラの手が跳ね上がる。

21 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:13:07.11 ID:YWwp1d2Z0

( ^Д^)「・・・・・・ッ!!!」

だが、タカラとてただ黙って銃を手放すわけではない。
ここで照準を狂わされた以上、再び構えなおしている間に撃たれてしまう。
タカラはそのまま相手の銃を握り、組み付いていった。
彼の敬愛する流石兄弟がVIPで燃え尽きると決めた日から、彼も死ぬ覚悟などとっくにできていた。
彼は銃を恐れない。
相手の手首の肉のついてない部分を的確に狙って、手刀を叩き込む。
相手の手から銃が落ちる。
これでお互いに銃は無くなった。
だが、相手は銃がなくなったことになど頓着せず、右手を振りかぶる。
タカラは反射的に右手を警戒するが、衝撃は右足に来た。
内藤が左足でこちらの右足を踏みつけていた。
バリケードを飛び越えて踏み込んできたときの動きから見ても、相手は相当足の力に自信があるらしい。

22 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:13:29.65 ID:YWwp1d2Z0

一体どれほどの力が込められていたのか、足に激痛が走る。
骨くらいは折れているかもしれない。
と、足に意識が行った瞬間に振りかぶられていた内藤の右手からフックが来る。
一瞬、意識が跳んで後ろに倒れこむが、これは計算のうちだ。
自らの背後に転がっていた銃を起き上がりざまに拾い上げると、両手でかまえる。
内藤が息を呑む。

―――勝った。

タカラは勝利を確信して引き金をひいた。





29 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:30:12.67 ID:YWwp1d2Z0

内藤がバリケードを飛び出して突進すると同時にジョルジュは敵の一人へ と肉薄していた。
内藤が避けた流れ弾が組員の肩を抉るのが見えたからだ。
こちらの組員を食ってくれた分の代償は、流石組の連中にも支払ってもらわなければならない。
相手が反応するよりも早く、そいつの額に拳をぶつける。
何時の間にかジョルジュの拳、中指と人差し指の間には細身のナイフが現れている。
ジョルジュの纏うスーツの裾から取り出したのだろうが、魔法のような素早さだ。
額からナイフを生やした男はそのままゆっくりと倒れると二度と動かなくなる。
だが、次の獲物を探そうとしたところで、全員の毛が逆立つような感覚を覚え、咄嗟にその場を飛びのく。
半瞬後には、先ほどまでジョルジュの居た空間をタルワールの先端が横薙ぎに通り過ぎていく。
凄まじい風切り音が響いた。とてつもない速さだ。

(;゚∀゚).。oO(おいおい、なんて速さだ。)

そう思い、タルワールの持ち主、つーを見る。
何時の間にかタルワールは鞘に納まっている。
だが、その鞘はまるで日本刀の鞘のような拵えをしている。
そう、まるで日本刀のように―――

30 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:30:40.75 ID:YWwp1d2Z0

(;゚∀゚) 「――居合いか!」
(*゚∀゚) 「ぴんぽーん。大正解。賞品は罰として首没収で〜す。」

意味わかんねーよ、大体”賞品”って言っといてなんで”罰”なんだ。
言おうとした時には再び風切り音が響いている。
殆ど反射的に身をすくめ、屈む。
その頭の上スレスレをつーのタルワールが撫でていく気配がする。

(;゚∀゚).。oO(ヤッベwwwww全然見えねえwwwwww)

振り向いた時には既につーがタルワールを鞘に戻すところだった。
通常、居合いというのは通常一太刀で決めなければならないといわれている。
刀を振り切った後に生まれる隙の大きさのためだ。
その上、居合いは如何しても刀の機動が限定されてしまう。
不一意への対応や、相手も自分も刀を抜いて居ない時に先を制すための技術なのだ。
相手が刀を抜いている状態で、戦闘中に使うのならば、相当熟練した者で無ければならない。
その点で言えば、目の前のつーという女は十分以上に”熟練した者”と呼べるだろう。

31 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:31:05.32 ID:YWwp1d2Z0

ジョルジュはVIPに来る前にあちこちの板を放浪していたが、その中で 居合い道の達人に会った事がある。
その居合いを見た事があるが、残像しか見えなかったほどの剣速だった。

しかし、つーの居合いはその残像すら見えなかった。
あまりの速度に空気が立てる風切り音しか聞こえなかったのだ。

(*゚∀゚) 「やるじゃん。二回目まで避けられたのは初めてだよ。」

つーが心底楽しそうに笑いながら言った。
とてつもない使い手だった。
だが、タルワールで居合いなど聞いた事が無い。
確かにつーの持っているタルワールは細身で、日本刀のようにも見える。
剣の反りを見ればつーの持っているタルワールの方が日本刀よりも上だろう。
それが鞘から抜かれる時にあれほどの加速を生んだのだろうか。
どちらにしても、タルワールによる独自の居合い道を操るつーの技量は半端ではない。

32 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:33:00.00 ID:YWwp1d2Z0

( ゚∀゚)「こんな程度の居合いを避けられたのが初めてだ?よっぽど 弱いヤツしか相手にしてこなかったんだな。」
(*゚∀゚)「吠えてる割には随分ギリギリで避けてんじゃねーの。」

ジョルジュの挑発で矜持を刺激されたのか、つーの手が再び翻る。
その降る切られる直前の手は何とか見える。
だが、その手の先、握られたタルワールの刀身が見えない。
ジョルジュは咄嗟に両手にナイフを握り、交差させる。
交差させたナイフへ向かって、つーのタルワールが激突する。
先程も述べたように、居合いというのはその軌道を限定する。
軌道を読むのはそれほど難しい事ではない。
しかし、ジョルジュの交差して掲げられたナイフにはヒビが入る。

(*゚∀゚)「お前みたいに俺の居合いを受け止めようとしたヤツはいたよ。だが、結果はご覧の通りさ。」

ひびが入ったナイフが根元から折れて、地面を跳ねる。
だが、ジョルジュの腕には既に新たなナイフが姿をあらわしている。

( ゚∀゚)「ナイフの一本や二本折った程度でいい気になるな。俺はまだまだ無傷だぜ?」
(*゚∀゚)「構わねーよ。そんならてめえのナイフが無くなるまで居合いを続けるまでだ。」

43 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:57:04.07 ID:YWwp1d2Z0

つーがさらに鞘に収めたタルワールの柄に手をかける。
あれほど反りの激しいタルワールなら、鞘に収めるのに苦労しそうなものだが、そんな様子は全く見られない。

ジョルジュは咄嗟にバックステップでつーの居合いの射程から外れる。
ともかく、つーのタルワールが届く範囲での戦いはマズい。
あの居合いの剣速とそのスピードから生まれる力の前にはナイフ程度では歯が立たない。
先手を打とうにも、タルワール相手にナイフ程度ではリーチからして違いすぎる。
ならば離れるしかない。

(*゚∀゚)「うわwwwwきたねえwwww」
( ゚∀゚)「馬鹿め。なんとでも言え。勝ちさえすればいいのだよ。勝ちさえすれば。」
(*゚∀゚)「最悪wwwwwwwww」

そんな会話をしつつ、つーに向けて右手のナイフを投げ付ける。
僅かな感覚を置いて、左手のナイフも。
腕を振り切る瞬間、その流れに自然に乗るかのように手首のスナップをきかせてナイフを放つ。
右手のナイフは腹の辺りを、左手のナイフはそれよりも少し高い軌道をそれぞれ回転しながら飛んでいく。

44 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 22:57:26.98 ID:YWwp1d2Z0


(*゚∀゚)「うげ、えげつねえwwwww」

つーのタルワールは鞘に収められている。
ここから急いでナイフを叩き落すには居合いしかない。
しかし、居合いの軌道は限定されている。
ナイフはそれぞれ微妙にタイミングと位置をずらされている。
落とせるのはナイフのうち一本だけ。
つーに、一度振り切った体勢からさらにナイフを叩き落している暇はない。
ならば―――

(*゚∀゚)「避けちゃえ。」
( ゚∀゚)「ちょwwwwwwwwww」
(*゚∀゚)「勝ちさえすればいいのだよ、勝ちさえすればwwww」

つーが、先程のジョルジュの口調を真似る。
それから暫くは、つーが間合いを詰めようとしつつも、飛来するナイフを警戒しつつ、避け
ジョルジュに距離をとられるという展開が続いた。


58 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 23:48:12.26 ID:YWwp1d2Z0

事務所内でそんな戦闘が行われている頃、ショボは意を決してトラックの 開けた穴から外へ飛び出していた。
組の倉庫から、神山組の倉庫から持ち込んだ突撃銃を引っ張り出してくるのに随分時間がかかってしまった。
突撃銃といっても、ただ弾丸をばら撒くためのものではない。
りんご社製 ピザ―M08。突撃銃なので、使われる銃弾の飛距離は当然自動小銃よりも短い。
せいぜい800mから900m程度と言った所だろう。だが、その銃身精度は狙撃銃並だ。
カウンタースナイプのレクチャーは一通り教官から受けた事があるが、正直言ってあまり得意とはいえない。
だが、他の連中よりはレクチャーを受けた事のある自分の方がマシだろう。
銃弾の飛んできた方角等から大抵の相手の狙撃位置を割り出すのだ。
とりあえずショボは外に出て、止まることなく走り続ける。
止まれば恐らく狙い撃ちにされる。
それも、直線的に動いていたのではすぐに移動先を予測されて撃たれる。
ともかくステップを生かして、相手が居るであろう位置を予測してともかく出鱈目にうごきまわる。
その時、飛来した銃弾がショボの足元を抉る。
ショボの足から左に僅か数センチの場所だ。

(´・ω・`)「・・・・・・・・・ッ!!!!!!!」

ショボの内心に驚愕が広がる。

59 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 23:48:34.30 ID:YWwp1d2Z0

相手の位置は、先程長岡組の組員が事務所入り口で撃たれた時にだいたい 予測していたつもりだった。
それが、何時の間にか移動していたのだ。

(´・ω・`).。oO(―――在り得ない!!! )

狙撃手が潜む場所の大前提は、標的から見つからない場所だ。
自然、遠く離れた場所になる。
長岡組の事務所は、それなりに人の多い街中にある。
周囲の家の中には大きなビルがあるが、小さな家だって混じっている。
おそらく狙撃手は遠くの場所から、大きなビルに視界が塞がれている場所を避けて狙撃しているのだろう。
この周囲にそれほど大きなビルはそうそう無いし、この方向からも色々と相手の居場所が予測できそうだ。
考えながらも、ショボは側に止められていたワゴン車の陰に隠れる。
そのうちに色々狙撃手の居そうな建物を計算する。
だが、気になるのは狙撃手の位置が短期間で随分移動した事だ。

(´・ω・`).。oO(もう一度試してみるか。)

次の瞬間にはショボは車の物陰から飛び出している。
そして、それと同時にショボの足元数センチ右をまた銃弾が抉る。

(´・ω・`).。oO(足を狙っている!!!?嬲るつもりか!!!)

60 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 23:48:55.61 ID:YWwp1d2Z0

そのまま、大急ぎで巨大なビルの陰に隠れる。
どういうわけか、狙撃手の位置はまた移動していた。
どうしたものか・・・。
ため息をつきつつも、無意識に空を見上げた時だった。
彼の隠れる影を提供してくれているビルの最上階の一室、その窓から銃口が見えていることに気づく。
そこで彼は全てを理解した。

銃弾が全て彼の足元スレスレに着弾していたのは、足を狙っているからではない。
彼をほぼ真上に見下ろすような位置から狙撃していたからだ。
そして、銃弾の飛んでくる場所がああも移動していたのは、ただ単に相手が近くのビルの中で近距離を移動していたからだ。
こちらを撹乱するつもりだったのだろう。
近距離なら数メートル程度の移動も、こちらが遠距離からの狙撃という先入観を持っている中では、数百メートルを移動しているような錯覚を覚 える。
狙撃手が潜む場所の大前提は、標的から見つからない場所。
そう、まさかわざわざこんな短距離で狙撃中を使うとは誰も思わないだろう。
まさに、”絶対に標的から見つからない場所”だ。

61 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/02(月) 23:50:15.76 ID:YWwp1d2Z0

(´・ω・`).。oO(やれやれ、どうやら本当に俺はカウンタースナ イプが苦手みたいだな。射角に注意すれば気づけただろうに。)

ビルの最上階から見える、相手の銃口が揺れる。
恐らく、こちらが相手の銃口を視界に捕らえた事にも気づいた。
ショボはほぼ反射的に突撃銃を相手に向けて構える。
室内は随分暗く、狙撃中を相手がどのように構えているかは見えない。
だから狙撃銃を狙う。
相手がもう一丁狙撃銃を持って居ればおしまいだが、運がよければ狙撃銃を持つ相手の腕に手傷を負わせる事が出来る。
この距離だ、スコープは必要ない。

銃声が響いた。





75 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 00:29:49.96 ID:70dkXpSA0

外で銃声が響く頃、僕が戦っている事務所の中でも銃声が響こうとしてい た。
僕はタカラの向ける銃を無視して、先程手から落とされた銃を拾いに行く。
タカラが僕のあまりの無謀さに驚きを感じたのか、顔を多少歪めながらも引き金を引こうとする。
一方僕の手はまだ銃には届いていない。
先程僕の足によってタカラの手から落とされた、ライフル銃には。
そしてタカラが引き金を引いた。
僕の手から落とされた、拳銃の引き金を。
銃声は響かない。
僕の拳銃の銃弾は先程の銃撃戦でとっくに無くなっているのだから当然だ。
僕が先程銃を構えて見せたのは、実はライフル銃を持つタカラへの牽制でしかなかった。
一瞬でも相手が銃の引き金を引くのを躊躇えばそれでよかった。
僕の拳銃を両手でしっかりと構えたタカラの顔に驚愕の色が広がる。
その間にも僕はタカラのライフル銃を拾い上げ、狙いをつけている。
その距離、役四メートル。いくら僕でもはずしようが無い。

76 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 00:30:10.85 ID:70dkXpSA0

( ^ω^)「最後に一つ聞くお。お前に殺される時、須藤さんはどんな 顔をしてたんだお?」

須藤さんの顔の鼻から上の顔半分は完全に吹き飛んでいた。
僕は須藤さんがどのような表情で死んだのか知らない。
ただ、残った口からだらりと舌を出し、死んでいた。

タカラが何か答えようとしたのか、口を開こうとした瞬間、僕は引き金を引いた。
躊躇はしなかった。殺人への忌避感も無かった。
目の前のコイツが須藤さんを殺したのかと思うと、自然と指が動いていた。
銃声が響いた。

だが、タカラと僕の間に突然入り込んできた影があった。
つーだ。
ジョルジュと切り結んでいたはずの彼女は、タカラが僕にライフル銃を向けられているのに気づいたのか、何時の間にかタカラを押しのけて銃弾 の軌道上に割り込んでいた。
つーの右胸で血がはじける。
つーが転がる。
タカラの目が大きく見開かれた。

77 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 00:30:52.10 ID:70dkXpSA0

(;^Д^)「つーちゃん・・・なんで・・・。」

タカラがつーの側に跪くと、震える声で語り掛けた。
つーの顔の上には透明な涙が雫となって落ちる。
つーの右胸はまるで石榴のように弾け、ところどころ白い肋骨が見え隠れしている。
誰がどう見ても致命傷だ。助からない。
その証拠に、次にしゃべりだしたつーの声は震えていた。

(*゚∀゚)「なんでって・・・・、そりゃあ・・・おまえ。俺たちゃ・・・ファミリーだから・・・よ・・・・。」
(;^Д^)「なんで!!!なんで!!!何時も僕の事バシバシ叩くくせに!!!どうして僕なんか庇うんだよ!!!」
(*゚∀゚)「はは・・・・、タカラ・・・・泣いてんの・・・かよ・・・。ひ弱な・・・ヤローだぜ・・・。」

そこでつーの口の端から血が泡になって溢れてきた。
僕の銃口はタカラに照準されたままだ。
が、僕の引き金が再び引かれる前に、トラックによって割られた壁から新たな乱入者達が現れる。

78 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 00:31:38.89 ID:70dkXpSA0

「タカラの兄貴!!!早く逃げてください!!!もうそこまで削除人達が 来てます!!!捕まったら終わりですよ!!!」

流石組の組員だろう彼等は、援護のために僕達へと銃撃を加える。
僕は慌てて後ろへとさがり、再びバリケードの後ろに隠れる。
バリケードから覗くと、血まみれのつーを抱きかかえるタカラを、数人の男達が無理矢理ワゴン車の中へと引きずっていく。
恐らく、彼等が乗ってきたものだろう。
最初に突撃してきた五人の流石組組員の生き残りだと思われる一人もそれに続いてワゴン車に入っていく。
その途中、タカラが叫んだ。

(#^Д^)「内藤ぉ!!!!!!てめえだけは絶対にゆるさねーぞ!!!!!二回も俺達の突撃を退けたんだ!!!次はぶっ殺してやる!!! てめえも!!!てめえの組も!!!皆殺しだ!!!!」

叫び声を響かせながらも、タカラはそのままワゴン車の中へと消えていった。




79 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 00:32:09.32 ID:70dkXpSA0

( ´_ゝ`)「タカラ・・・・・・・・・。」

迎えに来たワゴン車の中で、兄者がタカラを気遣って言葉をかけようとする。
だが、それを弟者が静かに首を横に振り、制した。

( ^Д^)「・・・・・・・・・・・・。」

タカラは静かに血に塗れたつーを抱きしめる。
もう殆ど意識は無いのだろう、殆ど閉じられたつーの瞼が、時折動く。
つーの体からは急速に体温が下がっていった。
走る自動車の振動に体を揺らしながらも、タカラのつーを抱く腕の力は強くなる。
どれほどそうしていただろうか?
数分か、数十分か。
そうしているうちに、走行中のワゴン車の中でつーの命の灯火が消えた。
つーの体はもうピクリともしない。

( ^Д^)「・・・・・・・・・・・・。」

タカラは静かに泣いた。
自らの涙とつーの血に体を染めながらも、物言わぬ死体となったつーを抱きしめるその手には先程の強い力は篭っていない。
まるで壊れ物を扱うかのように、静かにその腕で包んでいる。
そんなタカラに、ワゴン車内の人間は誰も話しかけられなかった。



98 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 01:04:27.09 ID:70dkXpSA0

長岡組事務所のあるビルの正面に位置するビルの中で、モヒャは息を潜め て壁にもたれていた。
その両腕からは血が流れている。

(;´⊇`)「糞・・・・ッ!!!」

彼の隣には、銃撃を受けて壊れた狙撃銃。
あの時、彼の狙撃銃から放たれた弾丸は確かに相手――確かリストによればショボとかいったはずだ――の体を抉った。
ショボはわき腹から血を流してその場に倒れこんだ。
だが、撃たれる直前にショボはその突撃銃の引き金をフルオートで引き絞っていた。
その中の一発が狙撃銃を、さらに一発がモヒャの右腕を、別の一発が左腕を貫いていた。
何発もはじき出された弾丸のうち、モヒャに命中したのはたった三発だけが、確実にモヒャの両腕から狙撃能力を奪っていた。
仲間が迎えに来るのを待っている状態だが、先程ビルの下に来た仲間のものと思われるワゴン車は、モヒャを回収する事無く走り去っていった。

(;´⊇`)「もしかして忘れられてる・・・?」

そう呟いてみたところで事態は変わらない。
ともかく下で倒れているショボにとどめを刺しに行きたかったが、この両腕ではそれも無理だろう。
まずは、なんとかして自力でここから離れなければ、削除人達に捕まってしまう。
そう思い、部屋のドアに向かって歩き出した。

99 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 01:04:51.80 ID:70dkXpSA0

彼が潜んでいたのは、最近VIPの勢いが衰えて、使うものが居なくなっ た灰ビルだ。
今のVIPにはこのような廃ビルが増えている。
板設立当初、急速に人口を増やし、発展していったVIPは、今やその発展を完全に止めていた。
むしろ、人口も経済もすでに衰退の色を見せ始めている。
閑話休題。
手傷を負った両腕で必死にドアノブを回し、廊下にでた彼を待っていたのは、廊下で眠りこける人影だった。

/ ,' 3「zzzzZZZzzZZZZZzzzZZZzzZzZZ」

その手に握られているのはサイレンサーつきの拳銃。
サイレンサーの先からは既に硝煙が出ている。

( ´⊇`)「あ゙・・・・・・・・・。」

それを確認した瞬間に、彼の意識が急速に遠のいていった。
彼がドアを開けたのにあわせて引き金を引いたのだろうか、まったく音は出なかった。

/ ,' 3「わすれられてたのは僕もいっしょ。」

意識が完全な暗闇に沈む一瞬前に、そんな声が響いたような気がした。

100 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 01:05:13.57 ID:70dkXpSA0





( ^ω^)「・・・・・・・・・。」

僕は留置所から帰る途中、タカラの最後の言葉を思い出していた。
あの後、駆けつけた削除人達によって逮捕された。
だが、輪呂巣会からの手回しか、数十分後には釈放された。
その場で倒れていた流石組の組員も一緒に。
生き残った流石組の組員はギコさんたちが引っ張っていった。
本人いわく「Vipperのたしなみとして拷問くらいは心得てる」との事だ。
流石組の潜伏場所が分かる日も近いだろう。

タカラは言った。
僕達も僕の組も皆殺しだと。

101 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/03(火) 01:05:42.37 ID:70dkXpSA0

タカラは須藤さんや武運組の組員数人を殺した憎むべき仇だ。
つーだって輪呂巣会傘下の組をいくつも襲った、仲間の仇だ。
だが、僕はあの時タカラが見せた涙が忘れられない。
僕はタカラともう一度見えたとき、ヤツを撃てるのだろうか。

・・・・・・。
撃てる。
いや、撃ってみせる。
タカラに何があろうと、タカラが須藤さん達の仇である事には変わりはない。
僕は撃たなければならない。
僕にも、守りたいと思う”組(ファミリー)”があるのだから。



第十話 Family・完


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