第二話
31 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:05:49 ID:+VI9CEl/0
( ^ω^)「・・・あれ?ここはどこだお?」
目が覚めると、どこかの洞窟の中だった。
( ^ω^)「確かツンと一緒に滝から落ちて・・・」
起き上がろうとすると背中と右足が酷く痛む。
どうやら滝から落ちたときに水面にぶつけたらしく、肌の表面がピリピリする。
右足は滝から落ちた際に、川底にぶつけたのか、動かそうとするたびに激痛が走る。
見てみると、腫れている。足の先を動かす事はできるので、折れてはいないだろうが、ヒビくらいは入っている
かもしれない。
他にも体のあちこちに擦り傷があったが、右足以外に特に大きなけがは無い。
( ^ω^;)「・・・、ここはどこだお。」
その時、洞窟の光のある方から、おそらく入り口だろう、足音が響いてくる。
上半身だけを起こして軽く身構えるが、足音の主を視界に捕らえて、体から力が抜ける。
ξ゚听)ξ「・・・・内藤!!!目が覚めたの!!!?」
( ^ω^)「どうやら気絶してたみたいだお。ここはどこだお?」
ξ゚听)ξ「とりあえず、どこかに隠れようと思って、気絶したあんたを引きずって、近くの洞窟に入ったのよ。」
( ^ω^)「そうかお。運んでくれてありがとうだお。助かったお。」
ξ゚听)ξ「馬鹿・・・。それはこっちの台詞よ。」
( ^ω^)「?」
ξ゚听)ξ「滝から落ちるときに庇ってくれたじゃない。」
( ^ω^)「必死だったからよく覚えて無いお。」
32 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:06:40 ID:+VI9CEl/0
僕達はそれから色々な事を話し合った。
お互い、服は濡れたままだったけれど、春も終わりかけているこの季節に寒さなど感じなかった。
ξ゚听)ξ「内藤はなんであんなタコ部屋に居たの?」
( ^ω^)「去年の四月に、一年間働いたら1000万貯まるって言われて着いていったら、あそこに連れて来られ
たんだお。」
ξ゚ー゚)ξ「へぇ〜。じゃあ今内藤は大金持ちなんだ。」
(;^ω^)「意地悪言わないで欲しいお。宿泊代とか食事代とか言われて、給料は全然貰ってないお。」
ξ゚听)ξ「なんでほいほいそんな怪しい話しについてくのよ。」
( ^ω^)「ニートだから、楽してお金欲しかったんだお。真面目に働くの苦手だお。」
ξ;゚听)ξ「うわ、最低。」
(めんどいので中略)
疲れていたのだろう。
僕達は気づかないうちに眠りに落ちていった。
高校時代、荒巻やショボと一緒に遊んだ夢を見た。
タコ部屋に連れてこられてから、夢を見たのは初めてだった。
こんなに暖かい気持ちで、落ち着いて寝られるのも。
夢の中で、僕は笑っていた。
36 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:10:39 ID:+VI9CEl/0
夜。外から聞こえるいくつもの足音で目が覚めた。
急いで起き上がる。
右足に激痛が走るが、構わずに洞窟の入り口まで行く。
人影は見えないが、音が聞こえてくる。
草を踏みしめてあちこちを歩き回っている。
明らかに、何かを探している。
あのタコ部屋の”現場監督”達だろう。
以前にも、逃げ出そうとして捕まった人達が連れ戻され、
なぶり殺しにされているところは見たことがある。
二度と逃げられないように、と手足を土木作業用のハンマーで叩き潰され、
生きたまま自分の手足の肉から砕かれた骨が飛び出してきたのを見させられる。
泣きじゃくれば泣きじゃくるほど”現場監督”達は喜んでいた。
彼等の面子に関わるため、脱走者は絶対に許されない。
恐らく、自分達も見つかればああなるだろう。
自分が”現場監督”達になぶり殺しにされる映像が脳裏に浮かぶ。
僕の心が震える。
次に、脳裏にツンがなぶり殺しに馴れている映像が浮かぶ。
僕の心が凍りついた。
決心は、一瞬だった。
37 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:11:04 ID:+VI9CEl/0
決めるが早いが、洞窟を飛び出す。
ξ゚听)ξ「内藤・・・?」
僕の立てる物音で、ツンも目を覚ましたようだ。
ξ゚听)ξ「内藤、何処にいくの!!?」
( ^ω^)「ごめんだお。ツンが逃げるのを手伝うって約束したけど、最後まで手伝えそうに無いお。」
ξ;゚听)ξ「何言ってんの!!!内藤!!!内藤!!!!」
( ^ω^)「ツンが安全に家に帰れることを祈ってるお。」
それだけ言うと僕は洞窟を背に一目散に駆け出した。
何かツンが叫んでいるが、それを振り切るように走り続ける。
地面を踏みしめるたび、右足に激痛が走るが無視する。
自分がここまで根性のある奴だとは思わなかった。
自分を自分で褒めてやりたくなった。
39 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:15:48 ID:+VI9CEl/0
数秒としないうちに、ガラの悪そうな格好の男達を見つける。
向こうもこちらに気づいた。
見たことの無い男達だ。見張りの連中だろうか?
僕はわざと大きな音を立てて逃げ、ツンの居る洞窟から離れていく。
男達が追いかけてくる。
何事か叫んでいるが、僕の耳には聞こえない。
きっと脅し文句だろう。
今聞いたら、心が恐怖で押しつぶされてしまいそうで、必死に耳に入ってくる言葉を理解しないように、わざと
大きな音を立てて走り続ける。
だが、突然目の前に崖が広がった。
僕の思考が絶望で埋め尽くされる。
後ろからは六人の男が追いかけてくる。
僕は覚悟を決めた。
僕の背に広がる崖を見て薄ら笑いを浮かべる、集団の先頭の男に殴りかかった。
何の躊躇も無く突然殴りかかってきた僕に、相手の男が驚く。
驚いたそいつの顔の中心を殴りつける。
何かが砕ける音。
恐らく鼻の骨だろう。
そいつは鼻を押さえながら転がりまわる。
僕は容赦なく、転げまわるそいつの腹や背中に蹴りを叩き込む。
右足の痛みを無理矢理押さえ込む。
40 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:16:22 ID:+VI9CEl/0
そこで、後続の五人が追いついてきた。
僕はひるむこと無くそいつらに向かっていった。
一番最初に目に付いたヤツの鳩尾を思いっきり殴る。
相手がひるんだ隙に、顔を殴る。
拳の端が瞼越しに相手の眼球を殴った手ごたえがある。
相手が片目を抑えて後ろに下がる。
これでしばらくの目潰しになるだろう。
そこで、後ろから殴られた。
拳の骨が僕の背中を抉る。
だが、僕は倒れない。
殴られるのは馴れている。
殴り、殴られ、を繰り返すうちに、気づけば僕は地面に芋虫のように丸まって、蹴られていた。
何がどうなって、この状況になったのかは分からないが、
地面にしっかりと立って僕を蹴っているのが二人しか居ないところを見ると、僕はかなり善戦したらしい。
僕を蹴っている男達の片方も、唇の端から血を流している。
しばらくすると、男達が僕を蹴るのをやめて、どこかへ携帯をかけ始めた。
何を言ってるかはよく聞き取れない。
41 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:16:43 ID:+VI9CEl/0
意識が朦朧としてきた。
もう指一本動かす事はできない。
男の一人が、僕の顔に耳を近づけて、何事か喋りかけてくる。
だから聞こえないっての。
声を出すのも億劫なので、唾を吐いてやった。
殴られた。
男は喚きながら懐から拳銃を取り出す。
そんなの持ってるなら最初から使えよ、バーカ。
拳銃が僕に向けられる。
と、僕と男の前に立ちふさがる影があった。
ツンだ。
42 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:17:18 ID:+VI9CEl/0
――――――・・・・・・・・・ッ!!!!!!!!!
ツン!!!駄目だ!!!逃げるんだ!!!!
心の中で必死に叫ぶ。
だが声はでない。
視界の端からだんだんと暗闇が覆っていく。
瞼が下がってきているのだろう。
駄目だ、ツン、逃げるんだ。
ツンは必死に男を睨み返して、何事かを叫んでいる。
僕の口が動いた。
ツン、逃げてくれ。
やはり、声は出なかった。
すぐに何も見えなくなった。
45 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:27:48 ID:+VI9CEl/0
目が覚めた。
僕は病院のような場所のベッドで眠っていた。
僕が起きたのを見ると、ベッドの側のデスクで書類を見ていた男が声をかけてきた。
( ̄ェ ̄)「やあ、目が覚めたかい?」
( ^ω^)「ここは・・・?」
( ̄ェ ̄)「病院だよ。非合法だがね。」
( ^ω^)「僕はどうしてここに?あなたは?」
( ̄ェ ̄)「私はただの闇医者だ。彼等が君をここに連れてきてね。」
そう言うと、男はさっさと部屋から出て行ってしまう。
( ̄ェ ̄)「おーい、組長さん、目が覚めた見たいだぞ。」
暫くすると、大勢の足音共に、ガラの悪そうな男達が部屋になだれ込んでくる。
どう見てもカタギの人間ではない。
僕が警戒心もあらわに彼等を見ていると、まるで海を割ったモーセのように、人ごみを割って歩いてくる老人
がいた。
年の頃は七十程だろうか。
髪の毛に白髪は混じっていても、やけにがっしりとした体つきをしている。
その老人が、ベッドに転がる僕の前まで来て、僕を見下ろす。
47 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:32:26 ID:+VI9CEl/0
(;^ω^)「・・・・・・」
老人「・・・・・・」
僕がこれからどうなるものか体を硬くしていると、突然老人が動いた。
(;^ω^)「・・・・・・・・・・・・・!!!!????」
僕の目の前で、老人は地面を頭に擦り付けそうな勢いで土下座をしていた。
(;^ω^)「え・・・?wwwちょwwwwなにこれ?wwwwどういう状況?wwww」
老人「内藤ホライゾン君、すまなかった。この通りだ。」
(;^ω^)「ちょwwwwいきなり謝られてもwwwwあんた誰だおwwwww」
老人「私は武運(ぶうん)組組長の武運だ。この度は大切な孫娘を助けてくれて、なんとお礼を言ったらいいか・・・。」
(;^ω^)「孫娘?ツンの事かお?」
武運組長「そうだ、本当にすまなかった。孫娘を助けてくれた君を、誘拐犯と間違えてこんな酷い仕打ちを・・・。」
(;^ω^)「ちょwwwもう土下座はいいから今の話、もうちょっとkwsk。」
48 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:32:56 ID:+VI9CEl/0
なんと、ツンの祖父はヤクザの親分さんだった。
彼の話によると、突然ツンが居なくなったので、その足取りを必死で追っていたところ、あのタコ部屋にツンに
似た少女が連れ込まれたという話を聞いたらしい。
そのタコ部屋はスレスト建設、という武運組の傘下の組で、頭に血が上った武運組の組長は深夜に若衆達
に命令して、あのタコ部屋を闇討ちしたそうだ。
あっという間にあのタコ部屋は制圧されたが、肝心の少女は見つからない。スレスト建設の社員に聞いてみ
れば、武運組の若衆が来る少し前に脱走したという。
そこであちこち探し回っているうちに、怪しい人影(僕)を発見して、追いかけていったらツンが出て来て僕を
かばい、事情を説明してくれたのだという。
武運組長「本当に、本当にすまなかった。この通りだ。」
(;^ω^)「いや、もういいですお。あのタコ部屋からも逃げ出せたみたいだし、ツンも無事に家に帰れたみたいだ
し。」
ここで、大きな音と共にドアが開き、ツンが部屋に入ってきた。
ξ゚听)ξ「・・・・内藤!!!目が覚めたの!!!?」
( ^ω^)「あ、ツン。心配してくれたのかお?」
ξ゚听)ξ「な・・・ッ!!!違うわよ!!!心配なんてするわけないでしょ!!!一応恩人だから気にしてただけ
よ!!!」
(;^ω^)「それって心配してるって言うんじゃ・・・」
ξ#゚听)ξ「うるっさいわよ!!!」
(;^ω^)「ちょwwwおまwww足痛いんだから叩くなwwww」
武運組長「内藤君、孫娘がこんなに嬉しそうにはしゃいでるのは息子夫婦が死んで以来初めてだ。何度もし
つこいようだが、本当にありがとう。」
ξ#゚听)ξ「ちょっとおじいちゃん!!!誰がはしゃいでんのよ!!!!」
武運組長「内藤君、これはその怪我の慰謝料と、ほんの少しだが私の気持ちだ。とっておいてくれ。」
そういうと、組長さんは分厚い封筒を僕に差し出した。
49 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:34:56 ID:+VI9CEl/0
僕はは何気なしに封筒の中身を眺めて絶句した。
封筒の中には一万円と思われる紙幣の束が入っていた。
とても百枚や二百枚では無いだろう。
封筒の中に紙幣を入れすぎて、封筒が殆ど四角柱のようになっている。
(;゚ ω゚ )「・・・・・・・・・」
武運組長「ん?どうしたんだね、内藤君。これじゃあ少なすぎるかい?」
(;^ω^)「ちょwwwwこんなにもらえませんおwwwww」
武運組長「これは私の気持ちだ。なんでも金で解決しようとしている愚か者に見えるかもしれんが、私が君に
できる御礼といったらこれくらいしか思いつかんのだ。」
(;^ω^)「そんな事言われてもwwwwww」
武運組長「ん?何かね?君は私の礼を受け取れないと?」
(;^ω^)「いえいえ、滅相も無い、ありがたく受け取らせてもらいますお。」
武運組長「他に何か私にできる事はないかね?できることならなんでもしよう。」
そういわれて僕はひとつの事を思い出した。
このお金で暫くは生活に困らないだろう。
だが、このお金を使い切った後、僕はどうすればいいのだろうか。
仕事を探そうにも、葬送簡単に高卒ニートの僕に仕事があるとは思えない。
50 名前: ◆RyjswZ9x5U
投稿日: 2005/12/28(水) 21:36:35 ID:+VI9CEl/0
( ^ω^)「働かせてくださいお」
武運組長「え?www働きたいって言っても、ヤクザだよ?www」
( ^ω^)「お願いします!ここで働きたいんです!!!」
武運組長「ちょwwwそんな千と千尋風に頼まれてもwwww」
ξ゚听)ξ「いいじゃない。丁度このまえ、弾除けが一人死んだところだし。」
(;^ω^)「・・・え?弾除け?」
ξ゚听)ξ「・・・別にッ!!!私は内藤と一緒に居たいからこんな事言ってるわけじゃ無いわよ!!!」
( ^ω^)「誰もそんな事聞いてないおwwwwww」
武運組長「弾除けと言われてもなあ・・・。とりあえず、しばらく客分としてうちの仕事をしてもらおう。それで向
いているようなら正式に組員になってもらうという事でどうだろうか?」
( ^ω^)「よろしく頼みますお!!!!」
この時のボクはどうかしていたのかもしれない。
いくら職が欲しいからといって、ヤクザは無いだろうに、ヤクザは。
でも、その時の僕は必死だったんだ。
ヤクザでもなんでもいいから、ともかく頑張って働きたい気分だった。
ともかく、頑張ろう。
頑張って、働こう。
もうツンに「うわ、最低」なんて言われないように。
生まれて初めて、そんな気持ちになった。
第二話 May you return home safe!・完
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