第八話

25 名前: ◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 22:57:38.48 ID:qDEZky3L0

僕たちの町に、VIPに、ある日突然紛れ込んできた異物。
その異物はまるで達の悪いウイルスのように、誰も気づかないうちにVIPに入り込んで、着々とVIPを歪め始めていた。
VIPの夜の世界に、極道の世界に深々と致命的な亀裂を刻んでいた。
その異物、いや、そいつ等の名前は―――


(;^ω^)「流石組?」
(,,゚Д゚) 「そうだ。生き残りの目撃証言からしてまず間違いない。ラウンジの高句麗一門に名を連ねている連中だ。」

緊急の輪呂巣会の集会が開かれたのはつい五分前だ。
議題はもちろん、昨日、いくつかの組の事務所に突撃してきた謎の武装集団の事だ。
昨日のほぼ同時刻、喪那亜組と神山組という、輪呂巣会でも最大といっていい派閥のうち、二つの組を含めた五つの組の事務所が襲撃を受けた。
襲撃を受けた当時、事務所に居た構成員はほぼ全員が死亡。数名の生き残りも重態だそうだ。
何時もなら、この集会に参加できるのは有力な組の組長だけなのだが、今日は違った。
輪呂巣会参加の組の組長や、有力な組の若頭、それにスレスト建設の件で輪呂巣会内に名前と実力を知らしめた僕とショボも参加を許された。
合計して三十人程がだだっぴろい座敷部屋に集められていた。

26 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 22:58:59.86 ID:qDEZky3L0

(´・ω・`)「そいつ等が・・・うちの組を・・・。」

先日の突撃を受けて、神山組は組長を含めたほとんどの幹部構成員が死亡。
重傷を受けて病院に運び込まれた若頭も二十分後に死亡した。
事実上、神山組の生き残りの中ではショボが一番の上位者だ。

( ゚∀゚)「流石組か・・・。聞いた名前だな。」
(,,゚Д゚) 「何?」

ジョルジュの呟きに対して、擬古組の組長、ギコが問い返す。

( ゚∀゚)「俺はVIPに来る前にもあちこちの板を放浪してて、一年ほどラウンジに居た事もあるんだが、そのときの事情でラウンジの方に も顔が利く。」

集会に参加する皆の視線がジョルジュに集まる。

( ゚∀゚)「連中から最近得た情報じゃあ、流石組って新進気鋭の中規模の組が、同盟組んでる組の若頭を怪我させて高句麗一門から破門され たって話だ。」
集会参加者A「つまり、今回の件はラウンジ全体の総意の上での侵攻ではなく、流石組のみの暴走というわけか?」
( ゚∀゚)「だろうな。いまさらラウンジがVIPに攻めてくる理由が無い。」

 
28 名前: ◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 22:59:48.53 ID:qDEZky3L0

高句麗一門というのは、ラウンジを取り仕切っているヤクザ達の連合のよ うなものだ。
かつてはラウンジから進出してくるヤクザと、逆にラウンジのヤクザのシノギを掠め取ってやろうというVIPのヤクザの抗争が絶えなかったの だという。
双方の勢力から大量に死者が出て、お互いに一旦退いて勢力を整えているうちにうやむやになって抗争は自然に終わったと聞くが、今では多少の 交流をするまでに関係は改善されている。
それでもVIPとラウンジ、お互い未だに警戒心と猜疑心をむき出しにしているのは確かだ。

今でこそVIPは勢いをなくし始めているものの、かつての数だけが多かったヤクザと違い、今のVIPのヤクザはしっかりと統制がとれ、組織 化されている。
ラウンジを仕切る高句麗一門が突撃を仕掛けてきても、お互いに無駄な損失を出すだけで、メリットが無い。

輪呂巣会長「ラウンジとの抗争の心配は無いと考えていいのだな?」
( ゚∀゚)「まず間違いないでしょう。」
輪呂巣会長「そうか、なら今回の集会は終わりだ。各自、流石組の捜索と警戒をしとけ。解散。」
(,,゚Д゚) 「待ってください、会長!!破門したとはいえ、元は高句麗一門に名を連ねてた連中ですよ!高句麗一門にも話を通して、て めぇのケツくらいてめぇで拭かせるべきですよ。」
輪呂巣会長「高句麗一門との関係を悪化させて、抗争でも起こせ、と?」
(;,゚Д゚) 「それは・・・・・・。」
( ^ω^)「会長、ギコさんの言うとおりですお。高句麗一門にもこの事は知らせて、流石組の情報をもっと得るなり何なりするべきです お。」

29 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:00:21.35 ID:qDEZky3L0


そこで、輪呂巣会長の視線が僕に向けられた。
年経て経験をつみ、狩の全てを熟知した鷲のような目だ。

輪呂巣会長「てめぇ・・・、武運のとこの内藤とか言ったか。ちょっと名前売ったくらいで調子に乗ってんじゃねえぞ、小物が。」
( ^ω^)「・・・・・・・・・。」
輪呂巣会長「少しは骨のある奴みてぇだからこの集会にも参加させてやったが、何時から俺に対して意見できる程偉くなった?ああ?のぼせあ がってんじゃねえぞ!!」

会長は声色こそ厳しいものだったが、その顔は笑っている。
まるで若者をからかうのが心底楽しいとでもいいたげに。
僕はその目を正面から睨み返す。

( ´∀`)「とりあえず、だ。これから今わかってる流石組の情報を書いた紙を渡すから、各自それを元に連中を探してくれ。」

事務所に襲撃を受けた当時、偶然外へ出ていて襲撃を免れた喪那亜組の組長、モナーが、場をとりなすように言った。
会長と僕はしばらく睨みあっていたが、会長がふん、と鼻で笑って解散を告げると、それを合図として集会が終わった。
モナー組長から渡された紙にある情報によると、流石組は二人の兄弟によって率いられているらしい。
高句麗一門の中でも先鋭的な超武闘派集団だったらしい。

 
31 名前: ◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:00:41.13 ID:qDEZky3L0

武運組長「まったく、内藤君と会長がにらみ合ってる間、ずっと心臓がバ クバクいってたよ。」
( ^ω^)「でもあの会長、おかしいですお。ラウンジとの関係の悪化を恐れるような腰抜けには見えないお。」
武運組長「内藤君は組の中ではまだまだ新入りなんだから、気をつけてくれよ。生きた心地がしなかったよ。」
( ^ω^)「すいませんでしたお。」
武運組長「でもあのドキドキ感はいいね。癖になりそうだ。」
(;^ω^)「ちょwwwwwwwwww」
武運組長「じゃあ、私は事務所で留守番してる須藤達に何かお土産を買って帰るから。」
(;^ω^)「わかりましたお。僕はとりあえずツンの警護に戻りますお。」

そして三十分後、僕はツンの喫茶店で、集会があったうちに事務所が襲撃を受けていた事を知らされた。
若頭の須藤さんも発見されたときには既に事切れていたという。

僕の頭の中に、何かが崩れる音が響いた。




36 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:20:33.76 ID:qDEZky3L0

翌日、須藤さんの葬儀が執り行われた。
武運組長は襲撃を受けたほかの組の組長の葬儀にも顔を出さなければいけないらしく、忙しそうだ。
他の組の組長さんも顔を出していたが、皆、物々しい警備を引き連れていた。

( ´∀`)「やあ、内藤君。」

そんな中、十人近いSPを引き連れたモナーさんがやって来た。

( ^ω^)「あ、モナーの叔父貴。叔父貴もうちの若頭の葬儀に来てくれたのかお。」
( ´∀`)「ああ、彼とは何度も面識があるからね。」

聞けば、モナーさんはSPだけでなく、喪服の下にも防刃ジャケットと防弾チョッキを重ね着しているのだという。
どうりで普段より少し太って見えるわけだ。
モナーさんは輪呂巣会傘下の組の中でも最大派閥の喪那亜組の組長だ。
何時命を狙われてもおかしくないし、実際に命を狙われて事務所に突撃された。
だが、これだけの警備がついていれば大丈夫だろう。
そう思い、僕はモナーさんとしばらく雑談を続けた。
モナーさんは人の上に立つ貫禄も持っている上、どこか気安さを感じさせる人だった。
この人の元に輪呂巣会の中でも多くの人が集っているのは当然の事だ、そう思わせる物をもっていた。

37 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:21:29.42 ID:qDEZky3L0

( ´∀`)「おっと、悪いね、内藤君。まだこの後神山組や、他にも二 つの葬儀場に顔を出さなきゃいけないんだ。先方にはスケジュールを伝えてあるから、遅れるわけにはいかないんだ。」
( ^ω^)「わかりましたお。どうかお元気で、モナーの叔父貴。」

今の輪呂巣会会長なんかより、モナーさんの方がよっぽど会長の器なのだと思うのだが・・・・。
そんなことを考えつつも僕はモナーさんを見送った。

棺桶に収まった須藤さんの頭は上から半分が無いのだという。
大口径の銃で撃たれたらしく、鼻から上が丸々吹き飛んでいたそうだ。
須藤さんの奥さんはそんな須藤さんを見て静かに涙を流したという。
どれどけの大人物でも死んで納棺されてしまえば、その狭い棺の中が全てだ。
葬儀にどれだけ人が集まって涙を流そうが、死んだ人間はそれを知る事は無い。
本当に嫌な話だ。
僕はしっかりと葬儀の席で手を合わせて、須藤さんの冥福を祈った。

そいつ等に襲われたのは葬儀場の中でだった。

「あんた、内藤さんだな?」

葬儀も終わりかけ、休憩室で長椅子に座る僕とドクオの前に三人の男が現れた。

38 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:22:06.32 ID:qDEZky3L0

声をかけてきたのはその中の、体格のいい男だ。目には隠し切れない敵意 のようなものが浮かんでいる。
組の者ではないし、他の組のお偉いさんの中にもこんな奴等は見たことが無い。
葬儀も終盤なので、残っているのは相当親しかったものか、通夜のために残っている家族だけだった。
もちろんそういった者達は、休憩室などには居らず、葬儀の席に残っている。
つまり、僕等と男たち以外にここには人は居ない。
そんな状況で僕たちに話しかけてくる見ず知らずの連中。
おそらくこいつ等が例の流石組。

( ^ω^)「流石組の方々かお。」
('A`)「・・・・・・・・・。」

ドクオが無言で長椅子から立ち上がる。
その体からは抑えきれない殺意が漏れ出しているように見えた。
すると、三人の中からリーダー格と思われる、やたらと暗い顔をした男が一歩前に出る。
その背にはゴルフバッグのような物が背負われている。

39 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:23:02.79 ID:qDEZky3L0

( -_-)「死にたい。」
(;^ω^)「ちょwww何か言ってるwwww」
流石組員A「間違いありません、ヒッキー兄貴。更新されたリストに載ってます。」
( -_-)「死ぬのが好きなわけじゃないんです。生きて居たくないんです。」
(;^ω^)「聞いてないのに何か説明しはじめたwwwwwwwww」
( -_-)「でも――――、」

そこで、ヒッキーと呼ばれた男が腕を跳ね上げた。
腕の先端には鋭利な輝き。ナイフだ。

( -_-)「――――お前等ゴミどもがのうのうと生きてるのに、僕だけ死ぬのは嫌だ。」

そう言った瞬間には、ヒッキーの右手に握られたナイフが僕の顔面に迫っている。
他の二人の男も懐から銃を抜いて発砲。
僕は咄嗟に長椅子を持ち上げて銃撃とナイフを避ける。
見れば、ドクオも同じように長椅子を持ち上げて銃撃を防いでいた。
ヒッキーのナイフが長椅子に刺さり、薄い長椅子のクッション部分を突き抜ける。
僕はタイミングをはかり、その瞬間に合わせて長椅子を回転させる。

40 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:23:30.52 ID:qDEZky3L0

長椅子に刺さったナイフがヒッキーの手から離れ、椅子ごと回転させられ る。
ヒッキーは、長椅子を回転させると同時に放たれた僕の蹴りで地面を転がる。
ドクオも長椅子を振り回して他の二人の銃を手から叩き落している。
あちらはもう心配無いだろう。
僕はそのままヒッキーに追撃をかけるため、地面に転がる頭を狙ってけりを放とうとして、やめた。
ヒッキーが自分の背負うゴルフバッグのように細長い鞄から、これまた細長い物体を取り出すのを見たからだ。
一メートル五十センチ程の日本刀だ。
それも、殆ど反りの無い勤皇刀。

(;^ω^)「ちょwwww銃とか刀とかテラズルスwwwwwww」
( -_-)「死んでくだちぃ」
(;^ω^)「GANTZ風!!?wwwwwww」

言いながらも、ヒッキーの振り回す刀を必死で避ける。
本来なら反りの無い勤皇刀は、切り裂く事には向いていないのだが、ヒッキーはそんな事にはお構いなしで振り続ける。
やがて、ヒッキーは自分の背負う鞄が邪魔になったのか、肩から鞄の紐を外す。
 
42 名前: ◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:30:16.81 ID:qDEZky3L0

途端に、ガシャンという音。
中に何が入っているかはだいたい想像がつく。
おそらく銃器の類だろう。
それらの重りをなくして身軽になったのか、ヒッキーの振り回す日本刀にはさらにキレが見えた。
僕は必死でしゃがみ、転がりつつそれを避ける。

(;^ω^)「ちょっと待つお、おまいら、一体何の目的があってこんな事してるんだお。」
( -_-)「それは僕が殺すために生まれてきたから。」
(;^ω^)「ちょwwwなにこの電波wwww」

先ほどのナイフの時のように突きを放ってきた。
僕は急いで先ほどのナイフが刺さったままの長椅子を拾い上げて防ごうとする。
だが、ヒッキーの突きの速度は先ほどの比ではない。
そして、そのエモノのリーチも。
今から長椅子を捻って回転させても間に合わない。
僕は急いで刀の刺さったままの長椅子を蹴り上げる。
物凄い重かったし、長椅子の骨組み部分は硬かったが、我慢して蹴り上げた。
間に合わずに、少し刃が僕の左胸と肩を抉る。

43 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:30:51.01 ID:qDEZky3L0

灼熱間が走る。
だが、そんな痛みでひるんでいるわけにはいかない。
僕の蹴りで長椅子はヒッキーの頭上にまで飛び上がっている。
もちろん、長椅子に刺さったままの日本刀を握る、ヒッキーの腕も。
ヒッキーの顔に迷いのようなものが浮かぶ。
このまま日本刀を握ったままにしておくか、さっさと日本刀を手放してさっさと離れるか。
その迷いが勝負の明暗を分けた。
腕が跳ね上がったままのヒッキーの胴体は隙だらけだ。
僕は長椅子を蹴り上げたばかりの足が地面に着地すると同時に、ヒッキーの鳩尾を蹴り上げる。
あまりの衝撃にヒッキーの体が一瞬、数センチ中空に浮き上がり、吹き飛ぶ。
先ほど蹴った時もそうだったが、随分ヒッキーの体重は軽い。
振るう刀やナイフのスピードはかなりの物だったが、この軽さでどこにアレだけのスピードを生み出す筋肉がついているのだろうか。
ヒッキーは起き上がろうとするがその背中にさらに僕の足が突き刺さる。

( ;-_-)「ぐッ・・・・・ッ!」

ヒッキーの喉の奥から空気が漏れる。

44 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2005/12/31(土) 23:31:36.32 ID:qDEZky3L0

一息ついてドクオの様子を見てみるが、
向こうも決着がついていた。
長椅子を振り回し続けるドクオに、二人の流石組組員は体を丸めて耐え続けるだけだ。

( ^ω^)「さて、どうするお?君達の負けだお。」

僕の声は荒い。
ついさっき須藤さんの焼香を済ませてきたばかりの僕に、須藤さんを殺した連中の一人を笑って許してやるだけの心の余裕は無い。
このまま肋骨の二、三本は折ってやろうか、僕は本気でそう考え始めた。
だが、ヒッキーは僕のその台詞に対して低く、暗い笑い声を響かせるだけだ。

( -_-)「負け?負けってのは完全燃焼できずに死ぬことさ。」
( ^ω^)「何?」
( -_-)「でも、君のおかげで僕も燃え尽きる事が出来そうだ。」

台詞と共にヒッキーが懐から丸い物体を放り投げた。
その形と碁盤の目のように表面を走る溝から、俗にパイナップルと呼ばれる物、手榴弾を。

51 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/01(日) 00:05:53.46 ID:ss8T4mjK0

( ^ω^)「ちょwwwwマジでズルスwwwwww」

僕は急いでその場を飛びのいて、まだ長椅子を振り回し続けているドクオを無理矢理引っ張っていく。
そのまま休憩室の扉をくぐって、扉の隣の壁に背をつけ座り込む。

('A`)「ちょ、兄貴、どうしたんですか。」
(;^ω^)「爆弾、爆弾、爆弾持ってる、あいつ!!!!!爆弾!!!!」

だが、何時までたっても僕発音は響かない。
不思議に思っている僕にヒッキーの声が部屋の中から届く。

( -_-)「まあ、ピン抜いて無いからね。」
(;^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」
( -_-)「本当は今死んでも良かったんだけど、あんたよりも重要な標的がいるんでね。そろそろ時間だから行かなきゃならない。」

そう言うと、ヒッキーは先ほどの鞄を拾い上げ、その中に先ほどの手榴弾を入れる。
そしてそのまま休憩室の窓を開け、窓から外へ出る。
ここは二階なので、高さの心配は無い。

52 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/01(日) 00:06:28.93 ID:qDEZky3L0

( ^ω^)「あ、待て―――」

だが、僕のその声は銃声でかきけされた。
慌てて扉の横の壁に顔を引っ込める。
何時の間にかドクオに殴られていた二人が拳銃を拾い、構えていた。

('A`)「あーあ、兄貴が俺を無理矢理引っ張っていくから・・・。」
(;^ω^)「・・・・・・、ゴメンだお。」

この間合いで銃を構えられると、僕らとしてはどうしようもない。
向こうも先ほどの攻防から警戒しているのか、こちらに近づこうとはしない。
膠着状態が続くかと思われた矢先、廊下の奥から複数の足跡が聞こえてきた。
僕はその足音の持ち主達の姿を見て絶句した。
廊下の奥からやってきた10人程の男達がその身に纏っているのは漆黒色のスーツだ。
それはいい。
葬儀の席では喪服など珍しくない。
いや、むしろその葬儀の席に溶け込み、潜伏するために喪服を着ているのだろう。
だが、彼等の動きは明らかに映画やテレビ等で見る、特殊部隊のそれだった。
先頭の男がアメリカ物の軍隊映画のように「Go Go Go Go!」と叫んでいる。
その手には無骨な形をしたアサルトライフルやサブマシンガンを抱えている。
彼等の中で先頭に立つ数人が呆然とする僕とドクオをの腕を取り、その場から引き離す。
引き離された先に居たのは擬古組組長のギコさんだった。

53 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/01(日) 00:06:56.74 ID:ss8T4mjK0

(,,゚Д゚)「よう、内藤。随分頑張ったみたいじゃないか。」
(;^ω^)「ギコの叔父貴・・・・。これは一体・・・。」
(,,゚Д゚)「何って、流石組の連中を狩り殺すのさ。」

話しているうちに武装集団は、銃を持った二人が潜む休憩室を攻略している。
突入前に、開きっぱなしの扉からスタングレネードを放り込む。
数瞬後に扉から溢れる閃光。
突然の足音に驚いていた中の二人は一たまりも無いだろう。
閃光が止んだ瞬間、武装集団のうち二人が中に突入、一人が扉の前でサブマシンガンの引き金を引きまくる。
3点バーストとかなんとかいう、一回引き金を引くだけで弾が三発発射される撃ち方だ。
彼等がその設定でサブマシンガンを撃っているのはフルオートに比べて経済的だからだろう。
軍からの横流しや軍事板からの密輸等でしか銃弾を得られない僕らには、銃弾は無限にあるわけではない。
中に居た二人はあっという間に穴だらけになった。

54 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/01(日) 00:07:33.56 ID:ss8T4mjK0

ギコさんは、今日あちこちで行われる組関係の葬儀に参列する組長達を 狙って、流石組の連中が突撃をかけてくるのでは無いか、と考えて、思ったらしい。
狩り殺すには絶好の機会だ、と。
格葬式会場に数名の”サクラ”を潜り込ませて、異変があれば側で待機している十名の武装集団が突撃をかける。
そんな罠を今日中にVIP市内に引いてしまったらしい。
しかし、流石組の連中も手際がよく、なかなか今回のように狩ることはできない、との事だ。
ギコさんは話しているうちに、無線が入ってきて「悪いな、次の罠に連中がかかった。話している時間は無い。」そう言って走っていって、車に 乗り込んでしまった。

しかし、こんな街中であんなごつい銃器を振り回すとは・・・、等と考えていると、ドクオが補足してくれた。

('A`)「ギコの叔父貴は元々ニュー速軍の大尉なんですよ。」
( ^ω^)「退役軍人さんかお。」
('A`)「いえ、なんか問題起こしてVIP設立のドサクサに紛れて部隊連れて逃げてきたらしいです。」
( ^ω^)「部隊ごと?」
('A`)「ええ。だからあいつ等、叔父貴の事”キャプテン(大尉)”って呼んでたでしょう。」
( ^ω^)「いや、僕は初めてマシンガン撃つところ見て、興奮してたからよく覚えて無いお。」
('A`)「・・・・・・・・・。」

58 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/01(日) 00:23:51.47 ID:ss8T4mjK0

その日はそのまま大人しく家路についた。
あれほど僕達が苦労して戦っていた連中を、ギコさんとその部下は一瞬で片付けてしまった。
なんだかそれが酷く馬鹿馬鹿しい事のように思えた。
自分がとてつもなく矮小な存在に思えた。

それからのその日の行動について、とくに話す事はない。
せいぜい、流石組の突撃を恐れて、夜道をおっかなびっくり帰ったくらいだ。
そして次の日になってから、僕の知っている人間が二人死んだことを知った。
一人はヒッキー。
そしてもう一人はモナーの叔父貴。
二人は同時刻、同じ場所で死んだ。
モナーの叔父貴ヒッキーが襲撃したのだ。
もちろん、十名近いSPがヒッキーの突撃を阻んだ。
だが、ヒッキーは撃たれようとも刺されようとも叔父貴に向かって突撃していったそうだ。
そして、ヒッキーの手が叔父貴の体に触れる距離まで近づいた時、ヒッキーの体が爆発した。
すでにピンを抜いた手榴弾を咥えていたらしい。
爆発は一瞬だった。
その後、僕はバラバラに吹き飛んだ叔父貴とヒッキーの死体を見た。
つい昨日戦ったばかりの相手が今日には死体になって出てくる。
随分あっけない物だな、と思った。

59 名前:
◆bP2qfddi66 投稿日: 2006/01/01(日) 00:24:22.82 ID:ss8T4mjK0

僕は静かに問いかけた。
―――これが燃え尽きるって事なのか?
馬鹿馬鹿しい。
本当に、馬鹿馬鹿しかった。
―――これが、お前等のいう”完全燃焼”ってヤツなのか?

ヒッキーは言った。
殺すために生まれてきた、と。
殺すために生まれ、殺すために死ぬ。
疑いもせずそう信じ続け、周囲に公言し、それに順ずる壮絶な”生”。

確かに馬鹿馬鹿しい。
そう笑い飛ばす事が出来る。
だが、僕は自分のためにしろ、誰かのためにしろ、そこまで必死になって何かをすることが出来るのだろうか?
そこまで必死になって何かをやり遂げる事が出来るのだろうか?

僕の背筋を、怖気が走った。




第八話 Born to kill・完


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